2013/07/30

『第二の人生』

登場人物

  • 若者
  • ナレーション(声のみ)
男が何か作業をしている。

ナレーション「クリヤマ・クリオさん。51歳。黄色い眼鏡専門のメガネ職人だ」

うん。これが、元の色ね。これが、そこに液、あるやろ。それで黄色ぅなるんやね。

ナレーション「クリヤマさんにしか作れない、こだわりのメガネを大切に愛用する有名人も多い」

うーん、そうやね。タージンさんとか、笑瓶ちゃんとか。贔屓にしてくれてるね。

ナレーション「かつて、この辺り一帯は黄色い眼鏡生産を一手に引き受ける、黄色い眼鏡銀座とも謳われた土地だった。数多くの黄色い眼鏡専門のメガネ職人が腕を競い合った時代もあったというが、安い外国産に圧されて職人の数は徐々に減少。その難しさもあってか、現在、黄色い眼鏡を作る技術を持つメガネ職人は、クリヤマさん一人になってしまったという」

間。

ナレーション「そんなクリヤマさんは、実は異色の経歴の持ち主。メガネ職人の前は、サイボーグ戦士だった」

あの頃も楽しかったねぇ。いろんな奴がおって、いろんな戦いがあって。

ナレーション「クリヤマさんは、どういう戦士だったんですか?」

特殊能力? 僕はね、これでも土の中に潜ることができたんよ。

ナレーション「それが、どうしてメガネ職人さんに?」

嫌いな仕事やなかったんやけどね。なんちゅうか、戦士っちゅうもんは図らずも、いろんな意味で壊してしまう……いや、もちろんそれは、しゃあないんやけど……ふとね、何か作りたくなったんよ。それでね、この世界に。

ナレーション「全く違う世界へのトラバーユでしたが、不安はなかったですか?」

そら、あったよぉ。師匠の元に何日も通い詰めてね。やっと弟子にしてもらっても、慣れんことばっかりでね。よぉ叱られたよ。

ナレーション「クリヤマさんが、ナカモト黄色眼鏡製作所に入ったのが、26歳の春。先代のナカモト・シゲオさんの元に弟子入りして、25年が経った」

今と違って、ようゲンコで、こうね。勉強させてもらったわ。

ナレーション「クリヤマさんにとって、『メガネ』とは何ですか?」

うん……難しいねぇ。材料はまあ、注文によっていろいろ変わるんやけど、基本はこの鼈甲…

男のもとに、若者が駆け込んでくる。

若者クリヤマさん。お願いします。僕を…

また、お前か。はい、行った、行った。見せ物やないんや。

男、若者を追い返す。

ナレーション「今のは……?」

いや、最近、何かよぉわからん子が来るんよ。気にせんとってね。ごめんね、テレビさん来てるのに。で、何やったっけ?

ナレーション「クリヤマさんにとって、『メガネ』とは」

ああ、そうやった。うーん……やっぱ、月並みやけど、子供っていうのかな。その、ここにある。何の変哲もない塊(かたまり)。それに魂を吹き込んでいくわけね。こう、こんな感じにメガネにしていく。そして最後にね、鮮やかな黄色になった瞬間。わしの手元を離れていく。のちのち、それを大事に使ってもらってるのを見ると、やっぱ、嬉しくなるねぇ。まあ、僕はコンタクトやけどね。

間。

ナレーション「これまでの人生、どうでした?」

人生? ……メガネかな。

ナレーション「え?」

メガネや。

ナレーション「……どういう意味でしょうか?」

まる書いてちょん。まる書いてちょん。……やね。

間。

ナレーション「そんなクリヤマさんにも、悩みがあるという」

この黄色いメガネ作りを……継いでくれる人がねぇ。

ナレーション「……お弟子さんですか?」

そう。なり手がなくてね……確かに、きつい仕事やし、黄色いメガネなんて、今の若い人には面白味もないんやろねぇ。

ナレーション「……あの、さっきの若い方は、もしかして弟子入り志望の方じゃ…」

……えっ? ウソん!?

暗転。

ナレーション「……クリヤマ・クリオさん。51歳。黄色い眼鏡専門のメガネ職人だ」

おわり。

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